地域資源を活用したサステナブルツーリズムとSDGs:企業連携で拓く地域活性化の新たな道筋
はじめに
地域活性化への貢献は、多くの企業にとって重要な経営課題であり、SDGs(持続可能な開発目標)への取り組みと強く結びついています。中でも、地域固有の自然、文化、歴史といった多様な資源を保全しつつ活用する「サステナブルツーリズム」は、経済的価値と社会的価値を同時に創出するCSV(Creating Shared Value)の視点から、企業の新たな事業機会として注目を集めています。
本稿では、サステナブルツーリズムがSDGsの複数の目標にいかに貢献し、また企業が地域と連携してプロジェクトを推進するための具体的な事例と成功の鍵となる視点について解説します。
サステナブルツーリズムがSDGsに貢献する多角的側面
サステナブルツーリズムは、単なる環境配慮型の観光に留まらず、地域経済の活性化、文化継承、社会課題解決など、広範な領域でSDGs達成に貢献します。
- SDGs目標8:働きがいも経済成長も 地域に新たな雇用機会を創出し、観光関連産業だけでなく、地域産品の生産・加工、交通、宿泊、飲食など、広範囲な産業の活性化を促します。
- SDGs目標11:住み続けられるまちづくりを 地域固有の文化遺産や伝統的な景観の保全・活用を通じて、地域の魅力を高め、住民の地域への誇りを醸成します。観光客と住民の良好な関係構築も目指します。
- SDGs目標12:つくる責任つかう責任 地域産品の積極的な消費を促し、地産地消を推進することで、地域経済の循環を強化します。また、観光における使い捨て製品の削減や廃棄物管理の最適化も重要な要素です。
- SDGs目標13:気候変動に具体的な対策を エコツーリズムや低炭素型の観光モデルを導入することで、観光活動に伴う温室効果ガス排出量の削減に貢献します。地域での再生可能エネルギー利用の推進も視野に入ります。
- SDGs目標15:陸の豊かさも守ろう 国立公園や自然保護区でのエコツーリズムは、自然環境の保全意識を高め、生態系の健全性を維持するための資金源となります。生物多様性の保護活動への貢献も期待されます。
- SDGs目標17:パートナーシップで目標を達成しよう 企業、自治体、地域住民、NPO、教育機関など多様なステークホルダーとの協働が不可欠であり、強固なパートナーシップの構築自体がSDGs目標達成に直結します。
企業が参画するサステナブルツーリズムプロジェクトの具体事例
企業が地域と連携し、サステナブルツーリズムを推進した事例を二つご紹介します。
事例1:地域文化と伝統産業を活かした体験型ツアーの開発
- 背景・目的: ある地方都市では、若年層の流出による過疎化が進行し、特色ある伝統工芸技術の担い手不足が深刻な課題となっていました。地域の活性化と伝統文化の継承を目的とし、企業連携による新たな観光コンテンツの創出が模索されました。
- 具体的な取り組み: 大手旅行会社が、現地の地域NPO、伝統工芸事業者、そして自治体と連携しました。旅行会社は、独自の顧客ネットワークとマーケティングノウハウを提供し、地域NPOは地域資源の発掘と地元住民の調整役を担いました。具体的には、伝統工芸職人によるワークショップ体験、古民家を再生した宿泊施設での滞在、地域食材を活かした食文化体験を組み合わせた、複数日間の体験型ツアーが企画されました。企業は、初期投資として古民家改修費用の一部を負担し、事業収益の一部を地域に還元する仕組みを構築しました。
- 成果とSDGs貢献: このプロジェクトにより、年間約5,000人の観光客が訪れるようになり、地域経済に年間数千万円規模の経済効果をもたらしました。また、ツアーの収益の一部を活用し、伝統工芸の若手職人育成プログラムが開始され、新たな雇用創出とUターン・Iターンの促進に寄与しました(SDGs目標8)。伝統文化への関心が高まり、地域住民の郷土愛も再確認されました(SDGs目標11)。地域産品の消費拡大(SDGs目標12)にも貢献しました。
- 連携ポイント: 企業の顧客基盤と事業ノウハウ、地域NPOの課題解決力と地域住民との信頼関係、伝統工芸事業者の専門性が有機的に結合したことで、持続可能な事業モデルが確立されました。
事例2:国立公園におけるエコツーリズムと環境教育プログラムの共同開発
- 背景・目的: 広大な自然を持つ国立公園では、観光客増加に伴う環境負荷の増大が懸念されていました。同時に、地域経済の自立的な発展も課題であり、環境保全と経済活性化の両立が求められていました。
- 具体的な取り組み: 大手アウトドア用品メーカーが、環境保護NPO、国立公園を管轄する自治体(環境省管轄の事務所を含む)と連携しました。メーカーは、専門的な知見を活かして、トレイルの整備や環境配慮型施設の設計・資材提供を行いました。環境NPOは、地域固有の生態系に関する専門知識と地域住民とのネットワークを活かし、環境教育ガイドの育成とプログラム開発を担当しました。具体的には、国立公園内の特定のエリアを対象とした、少人数制のネイチャーガイドツアーや、地域の子どもたちを対象とした自然体験学習プログラムが展開されました。企業の従業員がボランティアとして清掃活動や植樹活動に参加する機会も設けられました。
- 成果とSDGs貢献: 本プロジェクトにより、観光客が環境負荷を抑えながら自然を満喫できる機会が提供され、環境保全への意識が向上しました。地域の新たな雇用の創出と、ガイド育成を通じた人材育成にも貢献しました(SDGs目標8)。特に環境教育プログラムは、次世代への環境意識の継承に大きな役割を果たし(SDGs目標4)、国立公園の豊かな自然と生物多様性の保全(SDGs目標15)に直接的に寄与しました。また、観光客の集中を防ぎ、地域の広範囲に経済効果を波及させる仕組みが構築されました。
- 連携ポイント: 企業の環境技術と製品開発力、NPOの専門知識と地域への貢献意欲、自治体の管理体制と政策推進力が融合することで、環境保全と地域経済の両立が図られました。
企業が連携を成功させるための重要視点
サステナブルツーリズムを通じた地域活性化プロジェクトを推進する上で、企業は以下の視点を重視することが望ましいと考えられます。
- 1. 地域ニーズの深掘りと課題特定: プロジェクトの企画段階で最も重要なのは、表面的な観光客誘致だけでなく、対象地域の真の課題(人口減少、産業衰退、文化継承、環境負荷など)を深く理解することです。自治体、地域住民、NPOなど多様なステークホルダーとの対話を通じて、地域の潜在的なニーズや、企業が貢献できる余地を正確に把握することが不可欠です。
- 2. CSVを実現する事業戦略の策定: 企業の事業活動とSDGsへの貢献を両立させるCSVの視点を強く意識してください。単なる寄付や一時的なボランティア活動に留まらず、本業の強みや技術、ノウハウを最大限に活かしたプロジェクト設計が求められます。例えば、物流企業であれば地域産品の流通網整備、IT企業であれば観光DXの推進、金融機関であれば地域事業者の資金調達支援など、自社のコアコンピタンスを活かすことで、持続可能でインパクトの大きな貢献が可能となります。
- 3. 多様なステークホルダーとの強固なパートナーシップ構築: サステナブルツーリズムは、自治体、観光DMO(Destination Management/Marketing Organization)、地域事業者、NPO、地域住民組織、教育機関など、多様な主体との連携なくしては成功しません。それぞれの役割と責任を明確にし、共通の目標を設定し、定期的な情報共有と対話の場を設けることで、信頼関係に基づいた強固なパートナーシップを構築してください。SDGs目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」の精神を実践することが重要です。
- 4. 長期的な視点と持続可能性の追求: 短期的な成果だけでなく、プロジェクトが地域の自立と長期的な発展に繋がる仕組みづくりを意識してください。地域住民や事業者自身が主体的に運営していけるような体制を構築し、外部からの支援が終了した後もプロジェクトが継続し、さらに発展していけるような持続可能なビジネスモデルを構築することが求められます。成果のモニタリングと評価、改善サイクルを定期的に実施し、常にプロジェクトを最適化していく姿勢が不可欠です。
まとめと今後の展望
地域資源を活用したサステナブルツーリズムは、SDGs達成と地域活性化を同時に推進する強力なツールです。企業にとっては、CSVの視点から新たな事業機会を創出し、ブランド価値向上、従業員のエンゲージメント強化、そして持続可能な社会への貢献を実現する絶好の機会を提供します。
本業の強みとSDGsの視点を結びつけ、多様な地域ステークホルダーとの強固なパートナーシップを築くことで、企業は地域と共に未来を創造する担い手となり得ます。地域イノベーションSDGsラボは、こうした先進的な取り組みを支援し、持続可能な社会の実現に貢献してまいります。